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最新サーバー電源事情 — AI時代の電力設計はどう変わる?

サーバー電源事情

生成AIの普及で、サーバー電源設計は「高効率化」だけでは語れなくなりました。GPU 1基あたりの消費電力は1kW級に達し、ラックは100kW超、将来はMW級も視野に入っています。いま問われているのは、PSU単体の変換効率だけでなく、48V/54V級配電の限界、冗長時の低負荷効率、さらに液冷を前提にした電源・冷却の協調設計です。本稿では、公開一次情報をもとに、AI時代のサーバー電源で何が変わりつつあるのかを整理します。

背景:AI/GPUの拡大で、電力の見方そのものが変わった

まず押さえたいのは、データセンター電力を「年電力量」と「瞬時電力・設備容量」で混同しないことです。IEAは2024年のデータセンター電力消費を約415TWh、世界電力需要の約1.5%と見積もり、2030年には約945TWhへ倍増すると予測しています(IEA, 2025年4月)。一方で、よく引用される「96GW」はSemiAnalysisが示した“Critical IT power demand”の推計で、2023年49GWから2026年96GWへ増えるという設備側の見方です。TWhとGWは別の指標であり、同列には扱えません(SemiAnalysis, 2024年3月/IEA, 2025年4月)。

また、IEAの表現は「AI運用が電力の40%以上」ではなく、AI導入に対応するaccelerated serversが、2024〜2030年における世界のデータセンター電力需要増加分の「ほぼ半分」を占める、というものです(IEA, 2025年4月)。重要なのは、AIが需要を増やすだけでなく、サーバーの構成と電力密度そのものを変えている点です。

施設側のスケール感も変わっています。IEAは平均的なデータセンターを5〜10MW級、巨大なハイパースケール拠点を100MW超と説明しています(IEA, 2024年10月)。ノード側では、NVIDIA DGX B200が8基のB200 GPU、6基の3.3kW PSUを5+1冗長で構成し、システム最大電力14.3kW、B200級ではGPUあたり最大1,000Wを公開しています(NVIDIA, 2025年12月)。

技術の主戦場:PSU単体最適から、配電アーキテクチャ最適へ

48V/54V級は終わったのではなく、限界が見え始め、徐々に800VDCへ進化する

現行の高密度AIラックでも、ラック内は54VDC配電が主流です。しかしNVIDIAは、54VDCはもともとkW級ラック向けであり、ラックが200kWを超えると、銅バスバー量、電流、電源棚の占有スペース、複数回のAC/DC・DC/DC変換が物理的な制約になると説明しています(NVIDIA, 2025年5月)。同じ200kWでも、54Vなら約3.7kA、800Vなら約250Aで済み、配電設計の難易度は大きく変わります。重要なのは、「全面移行済み」ではなく「移行が始まった」という理解です。NVIDIA自身も、データセンターは徐々に800VDCへ進化すると説明しています(NVIDIA, 2026年3月)。

その流れを示す公開事例として、Schneider Electricは2024年12月にNVIDIAと共同で、液冷・高密度AIクラスタ向けに最大132kW/ラックのリファレンス設計を公表しました(Schneider Electric, 2024年12月)。さらに2025年10月には、次世代GPU向けとして最大1.2MWラックを視野に入れた800VDC sidecarを発表しています(Schneider Electric, 2025年10月)。

GaNとSiCは「どちらが勝つか」ではなく、「どこに使うか」の時代

PSU内部でも主役は変わりつつあります。GaNは高周波・低損失を生かしやすく、Navitasは2024年3月時点で、GaNベースの3.2kWデータセンター電源プラットフォームが100W/in³超、96.5%超の効率を実現したと公表しました(Navitas, 2024年3月)。一方SiCは高耐圧・高電力段で有利で、InfineonもSiCを400V〜3.3kV級、GaNを40V〜700V級として整理し、用途に応じて使い分ける前提を示しています(Infineon, 2026年時点公開情報)。

実際のAIサーバーPSUでは、GaNとSiCのハイブリッドが有力です。Navitasは2024年中に、4.5kW CRPSで137W/in³・97%超、さらに2024年11月にはGaN+SiC構成の8.5kW AIデータセンター電源で98%効率到達可能と発表しました。加えて同社のIntelliWeave制御はPFC段ピーク99.3%をうたいますが、これはPSU全体効率ではなくPFC段のピーク値として読むべきです(Navitas, 2024年11月/2025年3月)。

これからの評価軸は、50%負荷効率だけではない

AIサーバーでは冗長構成が前提になり、各PSUが常に高負荷で動くとは限りません。DGX B200も5+1冗長です(NVIDIA, 2025年12月)。このため、低負荷でも効率を落としにくいPSUが重要になります。CLEAResultが2025年3月に発表した80 PLUS Rubyは、冗長データセンター用PSUに対して50%負荷で96.5%、さらに5%負荷でも90%を要求しています。これは、冗長運転やオーバーサイズ設計でも無駄な損失を抑えるための基準です(CLEAResult, 2025年3月)。

PSU/配電方式の比較

方式 公開事例ベースの効率 公開事例ベースの電力密度 導入コスト感 主な適用領域
従来Si主体・Titanium級PSU 50%負荷で96%(80 PLUS Titanium、冗長DC向け) WBG系より不利 低〜中 既存CPUサーバー、既設データセンター更新
GaN主体CRPS 96.5%超 100W/in³超 48V/54V出力の高周波・小型PSU
GaN+SiCハイブリッドCRPS 97〜98% 137W/in³級(4.5kW事例) 中〜高 AI/HPC向け高密度サーバー、100kW級ラック
800VDC配電+ラック内DC/DC 現行54V系比で端末まで最大5%改善見込み PSU単体より「システム最適」で効く 高(初期導入) 将来の100kW超〜MW級AIラック

設計現場での示唆は明快です。短中期では、54V系を前提にGaN/SiCでPSUの高効率・高密度化を進めること。中長期では、ラック・列・室レベルまで含めた800VDC配電への移行シナリオを持つこと。この二つを並行して考える必要があります。

まとめ:AI時代の電源設計は「変換器」ではなく「電力システム」の設計になる

AIサーバー向け電源は、もはや単なるPSU選定の話ではありません。IEAが示すとおり、データセンター電力需要は2030年に約945TWhへ拡大し、その増加分の大きな部分をaccelerated serversが担います(IEA, 2025年4月)。現場では、54V系の限界を見極めつつ、GaN/SiCで当面の高密度化を支え、液冷・冗長運転・将来の800VDC化まで見据えて設計することが求められます。競争力は、部品効率だけでなく、配電、保護、冷却、実運用効率を一体で最適化できるかで決まります。

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Link T&Bでは、高効率電源、DC-DCコンバータ、次世代パワー半導体を活用した電力変換回路の設計開発を支援しています。AIサーバー向け電源の高効率化、高電力密度化、将来アーキテクチャの検討については、サービスページ または お問い合わせ からご相談ください。

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